Research

生命の動的な活動の中に


健康長寿社会のヒントを見いだす

私たちは明るい健康長寿社会の実現をめざして、神経変性疾患や血栓症、長期記憶、エピゲノム制御に関わるタンパク質の構造変化や液-液相分離、アミロイド線維化などのメカニズムを研究しています。とくに生体内の環境は動的に変動し、それに伴いタンパク質の状態も変動するという観点から、主に核磁気共鳴(NMR)を用いてタンパク質の動的な構造を原子レベルで解析しています。

生体内は物質濃度の変動や流れ・電場などが存在する非平衡環境

従来のタンパク質科学では温度や圧力が一定に保たれた試験管内で実験が行われますが、生体内の環境は動的に移り変わります。例えば、生命のエネルギー通貨であるATPの細胞内濃度は数mMオーダーで変動します。他にも、神経細胞に生じる電場や血流などの流れによって生体内の環境は変動します。近年、このような環境の変動がタンパク質の機能や疾患に関わることが分かってきました。私たちは生体内の動的な溶液環境をNMR試料管内に再現しながらタンパク質の機能や物性を研究しています。

流れの中のタンパク質の振る舞いを原子レベルで計測

生体内のタンパク質は血流や細胞内の流れに絶えずさらされています。そのような流れはタンパク質にどのような影響を及ぼすでしょうか?私たちはこの問いに答えるために、NMR試料管内に流れを発生させながらNMR測定ができるRheo-NMR装置を開発しました。このRheo-NMR装置を用いると流れによってタンパク質が不安定化する領域の同定やアミロイド線維化していく過程のリアルタイム計測などができます。

高齢者の健康を害するタンパク質の異常凝集を食品成分により抑制

日本人の平均寿命は世界1位と非常に長く、我々日本人にはたいへん喜ばしいことです。しかし、多くの高齢者は亡くなられる前の約10年間という長期間、何かしらの支援や介護を受けています。この問題は支援や介護を必要とする当人だけのものでなく、その家族・介護福祉士・医療従事者の負担にも及ぶため、高齢者だけでなく全ての人にとって明るい健康長寿社会を実現することが望まれています。このような背景のもと、私たちは支援や介護の大きな原因である神経変性疾患や血栓症の原因となるタンパク質の異常凝集を食品成分によって抑制し、健康長寿社会の実現に貢献することをめざしています。

クロマチンの動的構造変化からみる遺伝子発現制御と疾患の理解

真核生物のゲノムDNAは、クロマチン構造という形でコンパクトに細胞核内に収納されている。クロマチンは、ヌクレオソームが数珠状に連なった構造をとり、転写抑制される領域と、転写が活性化する領域によって遺伝子の発現を調節している。ストレスや環境変化によって、メチル化アセチル化などのエピジェネティックな修飾がタンパク質や核酸に入り、クロマチンの構造変化を引き起こすため、遺伝子の発現が変化し疾患などの発症に関わる。私たちは、タンパク質が持つ天然変性領域の構造揺らぎに着目し、修飾などによるクロマチン構造の動的な変化を原子レベルで研究することによって精神疾患などに関わる分子機構の理解をめざしている。

装置開発

流れの中の分子を原子レベルで解析できるRheo-NMR装置(µRheo-NMR、µRheo-NMR Pro)と光を照射しながらNMR測定ができる光照射NMR装置を開発しました。現在は、電場を発生させながらNMR測定ができるE-NMR装置を開発しています。
µRheo-NMRは、公益財団法人 豊田理化学研究所 2018年度 豊田理研スカラーの研究助成を受けて開発し、エアープロ株式会社から製品化しました。µRheo-NMR Proの開発では公益財団法人JKA 2021年度 自転車等機械振興事業の補助金を受けました。また、光照射NMRの開発では、公益財団法人 豊田理化学研究所 2019年度 豊田理研スカラー共同研究の研究助成を受けました。電場NMRの開発では、現在、公益財団法人JKA 2023年度 自転車等機械振興事業に関する補助金を受けています。

CYCLE JKA Social Action
KEIRIN.JP
豊田理化学研究所